タイ人マネージャー

 タイで働こうと決めた時、やはり以前の会社で経験した事が頭をよぎった。
 タイ人の離職率の高さである。

 以前の会社では、F(フォアマン)クラス(今はリーダークラス?)を日本に連れて行き半年実習をさせ、タイに戻って来た。
 そのF達は会社契約で、日本に行った場合帰国後2年間はその会社を辞める事はできないという事になっていた。

 その、二年と一日目。あるFが出勤して来なかった。
 他のタイ人が私に言ってきた。
 「Sさん彼はもう来ません」と。

 <何故>
 頭に血が上った?のを思い出す。
 せっかく2年間、ありとあらゆる技術・技能を教えたと思ったら、「ハイ、サヨウナラ」とは。
 それなのに数ヵ月後の会社の年に一回のパーティにはいかにも俺はこの会社でがんばったのだと言う様に「でかい面」で顔を見せに来ていた。
 周りのタイ人も当たり前のように接していた。
 これがタイなのだと思い知らされた気がした。


 そして今回、私が新たに入社した会社にはタイ人マネージャー(M)がいた。
 以前にも書いたが、その彼の肩書きはMからAM(アシスタント・マネジャー)になった。
 私がまだあまり仕事を理解していないし、彼は私の会社では一年半位のキャリアがあったのでその時は「助かる〜〜」と心から思った。
 実際、私が作業に付いてからも非常に良くやってくれていた。

 しかし、彼の方の考えは違っており私が入社した時点で退社を考えていたようなのだ。
(AMになったのも原因の一つか?給料はそのままなのだが)

 本当は違っていた。
<実は彼は自分で同じような仕事の会社をやっていたのだ>
(日本では罪になる?)

 私の会社は下請けなので、お客様からクレームがくると即日に手直し等に行かなければならない。
 そういう場合、AMやSV・Lのうち誰か一人と作業者二人位で行くように指示している。

 ある日もクレームが来た。
 彼は私に一人で行ってくると言ってきた。
 特に手直し等ではなく問題点の打合せとのことだったので、私はOKを出した。
 また、自分で車を運転して行って来るというので運転手を出さずに済むとこれも喜んでOKした。

 しかしである。
 あとで聞いた話だが、彼は自分の会社の為に打合せに行ったというのである。
 私の会社でやっていた仕事(会社では既にやらなくなっていた物)を引き継いでやっていてその打合せだったと言うのだ。
 ある日も同じ様に出かけていった。
 その時は、お客様の所には行かず自分の家に行っていたというのである。
(その時点ではそういう事をしているとは誰も知らなかった)

 そして、ついに彼から辞表がでた。
 彼本人からではなく、作業者にあずけていたのである。
 「もしいついつに出社しなかったら、辞表を出しておいてくれ」と。
 私はそれを知って、何とも言葉が出なかった。

 彼に電話をした。
 そうすると彼はその辞表は本気ではないと言った。
 え〜〜〜〜〜???
 そんな大事な物を他人に渡しておくか〜。

 次の日、彼が出社してきたので工場長と私と三人で話し合いを持った。
 すると今度は「次月15日で辞めます」と言ってきた。
 私は辞表が出た時点で、もうダメだと察していたので驚きはしなかった。
 そして彼は、
 「15日までは一生懸命頑張ります」と言った。

 しかし、その2日後からは出社して来なかったのであった。


 管理人から
 タイ人は会社を転々としながらキャリアアップを図る人がほとんどである。一生懸命教えても、結局それは会社の財産ではなくて個人の財産にしかならない。なのでタイ人を雇って育てると言うことを躊躇する会社が多い。が、自前のタイ人を育てなくてはタイで会社として成り立っていかないわけで、タイの仕事で何が難しいと言えば、結局タイ人を使うことだったりする。タイ人の人事感覚は我々の感覚と違うと言いたい所だが、日本の終身雇用制が生んだ日本独特の感覚なのかもしれないと最近思う。アメリカだって契約で縛るだけでタイに近い気がするが、タイはその契約が簡単に保護にされてしまうのが…。